恋人が、「1冊だけ本を買ってくれる」と言ってくれた。
選んだ1冊がこの本で、運命なんじゃないか。なんて思ってしまった。
もちろん私が自分で選んで恋人に買ってもらったので、彼はお金を出しただけ。
それでも、この本が彼のプレゼントによって巡り合えたのかと思うと、ロマンチックに感じてしょうがないのだ。
素朴でどこにでもいそうな2人が、自分だけの事情を抱えながら紡いでいく物語。
本音を言うと、本屋さんに行くとこんな話はよくあるだろうな、と思う。
それでいい。
そんな2人の物語だからこそ、わたしは自分を重ねて、彼を重ねて、この話をプレゼントしてくれた彼に「ありがとう」思って勝手にほこほこできる。
勝手にほこほこしてるくらいでちょうどいい。
『僕らのごはんは明日で待ってる』・あらすじ
兄の死以来、人が死ぬ小説ばかりを読んで過ごす亮太。
けれど高校最後の体育祭をきっかけに付き合い始めた天真爛漫な小春と過ごすうち、亮太の時間が動きはじめる。
やがて家族となった二人。毎日一緒に美味しいごはんを食べ、幸せな未来を思い描いた矢先、小春の身に異変が。
「神様は乗り越えられる試練しか与えない」亮太は小春を励ますが…。
語らないのも愛情のうち
「なんでもオープンにすりゃ、誠実や思っているなんて、若気の至りや。あほらしいで」
ギクッとした人、いませんか?笑
主人公の亮太が恋人と喧嘩をして旅に出たとき、そこで出会ったおばちゃんに言われた一言です。
誰かと距離を縮めたいと思った時、自分の過去や打ち明け話をするのはよくやること。
それが当たり前になっているからか、打ち明け話をしてくれない人に対して、「この人は自分と仲良くなりたくないんだ」なんて思ってしまうこともあります。
確かにそれも一理ある。
でもそれだけで相手の心情を決めつけてしまうのは、浅はかだったなとこのおばちゃんの一言で気づきました。
愛があるから、言わないこともある。
真実ってのは綺麗なことばかりじゃないから、伝えることが相手にとっては正解にはならない時だってあります。
「それって自分が楽になりたいから言ってるだけじゃん。」みたいな。
困ってるフリ、考えてるフリ、に逃げてないか?
「新しい人と付き合ってみたけど、やっぱり元恋人が好きみたい。
でも今の恋人を傷つけたくないし、まただめかもしれないし、そもそも寄りをもどせるか分からないし…」
よく聞く話だし、私自身も思い当たる節が…。笑
主人公も同じように悩んでいて、ついつい自分を重ねてしまいます。
「自分のいい加減さに目を向けたくなくて、考え込んでいただけで、答えはもっと前に出ていたんだよな。」
本当にその通り。考え事なんて考えだした時点で答えが出ていることばかり。
悩んでいるふりして問題を先延ばしにしてること、よくある。
あのときは正しいと思って出した答えが間違っていたという過去の自分を、潔く認められる人間になりたい。
綺麗ごとを、受け入れられるようになったら報われたことにする
わたしは天邪鬼の性格なので、綺麗ごとが素直に受け取れないことがある。
同じようにこの物語の主人公・亮太も、兄を失うという経験をしたことで綺麗ごとを卑屈にとらえるようになっていた。
「悲しみや辛さを知った分、優しくなれるし強くなれるっていうだろ?
そういうの、ずっとばかばかしいと思ってたんだ。」
「悲しみや辛さを知った分だけ優しくなれるし強くなれる」
この言葉は本当に正しいのだろうか。
じゃあ平和に生きてはいる人たちは意地悪で弱いのか。
それは違う。そういう人たちだって優しいし、強い人がいっぱいいるのだ。
そんな天邪鬼なわたしも、主人公のように辛くて苦しかった昔の経験が誰かの支えになるときがくるかもしれない。
きっとその時がわたしにとって綺麗ごとを受け入れられる時だと思う。嫌な経験が報われて、少し浄化された時だと思う。
今は多少なりとも卑屈であっても、その時に報われればそれでいいのだと思う。
誰かと形作っていける幸せ。
こんな風に自分たちで未来を思い描いて、それに自分たちで近づくことができる。
そしてすぐそばにその未来が待ってる。
全部が全部思いどおりにいかないだろうけど、それでも少しずつ形づくっていける。こういうのを幸せっていうんだ。そう思っていた。
こういう類の幸せは、見つけることがなかなか難しい。
思いどおりにいかなくても、これでいい。と思える絶対的な安心感を持てる相手に出会わなければ、なかなか気づけないところにある幸せだと思う。
この物語は、その幸せにゆっくりと時間と心をかけて気づいていく、そこらへんによくいそうな2人の物語なのだ。
そして、このブログの冒頭で言った、「彼からもらったプレゼントがこの本でよかった」というのはここにある。
一緒に幸せを形作っていきたいと思う相手に、こういう類の物語をプレゼントされるのは、なかなか素敵。
大切な人がいる方には、積極的に物語を贈ってほしいと思う。
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